書評:「精霊の箱 チューリングマシンをめぐる冒険」
今回紹介する本は以前紹介した「白と黒のとびら オートマトンと形式言語をめぐる冒険」の続編です。前作のテーマがオートマトンと形式言語に対して、今回のテーマはどっぷりチューリングマシンになり、相変わらず計算理論をファンタジーの世界で語るという無茶振りをこなしてくれている稀な本になります。
本作では前作の主人公のギャレット・ロンヌイが継続しますが、舞台は1年後になり、ギャレットの成長と事件を通して舞台はスピーディーに展開します。
そして、前作との大きな違いはテーマがオートマトン/言語理論からチューリングマシンに変わったのに加え、小説としての読み応えが増しているところです(上下2冊分になってます)。特にギャレットの心理描写などは普通のファンタジーとして読んでもひじょうに面白いです。
個人的には前作よりも計算理論色が若干薄めになっているのでチューリングマシンにビビってしまう人でも問題なく読めると思います。ちなみに、扱っているチューリングマシンのテーマは、
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- チューリングマシンの基礎
- チューリングマシンでの計算
- 自己複製マシン
- 万能チューリングマシン
- 停止性問題
- 電気回路とチューリングマシン
- 暗号
となっています。特に最終章の暗号は公開鍵暗号のRSAを取り扱っており、計算量の問題にアプローチをしています。チューリングマシンと公開鍵暗号の組み合わせはかなり(ファンタジー的にみてもね!)アツい話なので熟読必須です。私は久しぶりに徹夜で一気読みしちゃいました。
タイトル;精霊の箱 チューリングマシンをめぐる冒険
おすすめ度:★★★★★
対象読者:前作を読んだ人。チューリングマシンの応用を知りたい人
Good Point:
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- ファンタジーx計算論という鬼のような組み合わせを見事に描いた良作
- 前作よりも冗長な感じがしないスピーディーなストーリー展開
Bad Point:
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- 特にないのですが、あえていうならば記号が小さくて見にくいところがあるくらいかな
書評:「論理学(3STEPシリーズ)」
先日、このブログで「記号論理入門」という本を紹介しました。この本は入門には最高な本なのですが、論理学の次の一歩を示すにはちょっと物足りないところがありました。このため、今回は論理学の世界が広がるような本をチョイスしてみました。
今回紹介する「論理学(3STEPシリーズ)」という本は前半は論理学の入門書、後半は論理学の発展的トピックを取り扱っています。前半の入門部分の特徴は、モデル論をベースとしている点と、命題論理と述語論理の間に様相論理の解説が挟まることです。多くの人が述語論理の量化を理解するのに苦労すると思いますが、この本では間に(自然と量化の概念を使う)様相論理を挟むことによって述語論理の取っ付きにくさを解消しています。
また、後半については直観主義や多値論理などを取り扱っており、まさに学問としての論理学に一歩踏み入れた感じがします。後半は入門書としてはちょっとハードルが高いかもしれませんが、これから論理学を学ぶ人にとっては世界が広がる一冊だと思います。ぜひ読んでみてください。
タイトル:論理学(3STEPシリーズ)
おすすめ度:★★★★☆
対象読者:論理学にもうちょっと踏み込んじゃおうと思っている人。様相論理に興味がある人
前提知識:とくにありませんが、野矢先生の「論理学」の最初の方とかを読んでおくと良いと思います
Good Point:
- 様相論理について学べること。形式的証明とかコンピューターサイエンスで様相論理は使われますがなかなか入門書がないのが現実なのです...
- 論理学の発展的テーマに触れることができること
Bad Point:
- 後半になると一気に難易度が上がってしまう感じがします(難しすぎるというわけではないのでご安心ください)
書評:「記号論理入門」
以前に論理学の入門として野矢先生の「論理学」を紹介しましたが、今回紹介する本は野矢先生の本の続編と言ってもいいような論理学の入門書になります。証明の書き方とかも一緒なので、野矢先生の「論理学」の続編の感覚で読み進めることができます。
ちなみにカバー範囲は命題論理と述語論理になりますが、どちらかというと証明の組み立て方を重視しているので証明を深掘りしたい人には最適な本です。また、最終章にはオマケレベルですが直観主義とかメタ論理とかの発展系の話題も取り扱っているので次のステップに進みたい人も良いと思います。
論理学を齧ったけど面白さをもう一歩追求してみたい人におすすめです。
タイトル:記号論理入門
おすすめ度:★★★★☆
対象読者:論理学を齧ったことのある人で、もうちょっと深掘りしてみたい人
前提知識:論理学の基礎知識。野矢先生の「論理学」は必読
GoodPoint:
- 証明の手順をがっつり解説してくれている点が好感が持てる
- 内容がコンパクトにまとまっていてバランスが良い
- 哲学科の大学の教科書にちょうどいいかも。
BadPoint:
- (あえて挙げると言えば)図が少ないところかな。。。
書評:白と黒のとびら-オートマトンと形式言語をめぐる冒険-
今回は計算理論をファンタジー小説に仕立て上げた「白と黒のとびら」という本を紹介したいと思います。一般的に計算理論の入門としてはオートマトンと形式言語を学ぶのが定番なのですが、それを小説(しかもファンタジー)にしてしまったというのがこの本の特徴です。
こういった本には小説としての面白さと入門書としての取っ付きやすさが求められるのですが、この本は両方とも高次元に融合していて小説としても面白いし、計算理論としてみても面白いという一冊で二度美味しい本に仕上がっています。作者のアイディアとスキル(文才)がキラリと光る良作だと思います。
話は魔導士に弟子入りした少年が「魔法(言語)」と「遺跡(計算機モデル)」を通して成長していくストーリーです。内容的には万能チューリングマシンくらいまでが触れられていますが、前提条件として初歩のオートマトンと言語の知識があった方がサクサク読めて楽しめると思います。
オートマトンと形式言語の勉強に疲れちゃった人とか、これから計算理論をやってみたい人とかが読むと満足感があると思います。
タイトル:白と黒のとびら-オートマトンと形式言語をめぐる冒険-
おすすめ度:★★★★☆
対象読者:オートマトンと形式言語に興味がある人(とくに、取っ付きにくいと感じている人)
Good Point:
- とにかく小説としてよくできています。ストーリー展開のテンポがいい。
- 徐々に形式言語とオートマトンの世界に踏み込んでいく形になっているので、お堅い計算論の分野のハードルを下げてくれている。
- 巻末の解説が意外と良くまとまっている。
Bad Point:
- 特にないが、あえていうなら⚫️⚪️の羅列で埋め尽くされたページがあり、圧倒されてしまうかも。
書評:オートマトン・言語理論の基礎
先日からオートマトンと言語理論について再学習しています。大学時代に齧ったんだけど、じっくり学び直したいと思い20年ぶりに勉強をしてみました。今日はそんな私が教科書に選んだ1冊をレビューします。
タイトル;オートマトン・言語理論の基礎
おすすめ度:★★★★☆
対象読者:(離散数学を勉強していない)工学部などの学部生
前提知識:特になし(若干、集合論の基礎)
Good Point:
- 離散数学の知識なしに学習できる。このため、定理の証明は少なめ。
- Youtubeで無料で公開されている福井大学の授業で使われている。
- 計算モデルと言語をきっちり分けて説明し、最後にその対応をとっている。このため、読者が計算モデルの世界と言語の世界を行ったり来たりしないで理解することができてすごく良い。
Bad Point:
- 計算可能性などのトピックまでは踏み込めていない。あくまで入門レベル。
- 後半になると説明が若干雑に感じるところがある
総評:理学部ではなく工学部の学生にとってはひじょうに良い本だと思います。理学部の学生にはもうちょっと数学的に解説された本の方が合っていると思います。






